
2026-06-14
税金・節税認知症で不動産が売れない?相続対策に与える影響を税理士が解説
少子高齢化が進む中、認知症などにより不動産所有者本人の判断能力が低下するケースが増えています。判断能力がないと判断された場合、不動産の売却や相続対策にどのような制限がかかるのか、そして認知症になる前にできる対策を税理士が解説します。
少子高齢化が進む中、認知症などにより不動産所有者本人の意思決定能力(意思能力)が低下するケースが増えています。意思能力がないと判断された場合、所有する不動産の売却や、生前贈与・家族信託といった相続対策を行うことが難しくなります。本記事では、認知症になった場合に不動産の売却・相続対策にどのような制限がかかるのか、そして認知症になる前にできる対策について税理士が解説します。
認知症になると不動産の売却・相続対策に制限がかかる
不動産の売買契約や贈与契約は法律上の「契約」にあたります。契約を結ぶには、自分の行為の結果を理解し判断できる能力(意思能力)が必要であり、認知症が進行して意思能力がないと判断された場合、本人名義の不動産の売却契約や贈与契約は無効となるおそれがあります。 また、不動産だけでなく銀行預金の引き出しや解約についても、窓口で本人確認が困難と判断されると、家族であっても代理での手続きができなくなる場合があります。
売却が著しく困難になるとどんな問題が起きる?
具体的には、次のようなケースで問題が生じます。 ・親が認知症で施設に入所することになり、入所費用を確保するために自宅を売却したいが、本人の意思確認ができず売却が著しく困難になる ・空き家となった実家を売却・賃貸に出したいが、所有者である親の同意が取れない ・将来の相続税対策として生前贈与を検討していたが、認知症発症後は贈与契約自体が成立しない この結果、誰も住んでいない自宅の固定資産税や管理費だけがかかり続けるといった事態に陥ることも少なくありません。
認知症になった後の対応:成年後見制度の限界
法定後見制度とは
認知症等により判断能力が低下した方の財産管理を行う制度として、成年後見制度(法定後見)があります。家庭裁判所が後見人等を選任し、本人に代わって財産管理や契約行為を行う制度で、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれます。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が選任されたとしても、自宅などの居住用不動産を売却する際には、家庭裁判所の許可(居住用不動産処分の許可)が必要です。許可を得るには売却の必要性や条件の妥当性を示す必要があり、手続きには一定の時間がかかるほか、許可が得られず売却が著しく困難になるケースもあります。
後見人がついても「相続対策」は基本的にできない
成年後見制度は、あくまで本人の財産を守ることを目的とした制度です。そのため、後見人がついた後は、生前贈与や家族信託の設定といった「相続税対策」を新たに行うことは、原則として認められません。本人の財産を減少させる行為は本人の利益にならないと判断されるためです。 つまり、認知症が進行してから相続対策を始めることは、実質的に困難になります。
認知症になる前にできる対策
家族信託(民事信託)
家族信託(民事信託)は、不動産などの財産の管理・処分権限を、信頼できる家族(受託者)にあらかじめ託しておく制度です。所有者本人が判断能力を有するうちに契約を結んでおくことで、本人が認知症になった後も、受託者が信託契約の範囲内で不動産の売却や管理を行うことができます。 成年後見制度と異なり家庭裁判所の許可を都度得る必要がないため、柔軟な財産管理・売却が可能になる点が大きなメリットです。 ただし、家族信託は契約内容の設計が重要であり、家族構成や保有資産によっては適さないケースもあります。
任意後見制度
任意後見制度は、本人が判断能力を有するうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ任意後見人となる人やその権限を契約で決めておく制度です。実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が発生します。 ただし任意後見も家庭裁判所の監督下に置かれるため、法定後見と同様に、相続税対策のための財産処分には制約がかかる点に注意が必要です。
生前贈与・売却の検討は「判断能力があるうち」に
生前贈与による相続対策や、不要な不動産の売却・整理は、本人の判断能力がしっかりしているうちに行っておくことが大前提です。「まだ大丈夫」と先延ばしにしているうちに認知症の症状が進み、対策を打つタイミングを失ってしまうケースは少なくありません。
税理士からのアドバイス
認知症対策・相続対策は「いつから始めるか」のタイミングが非常に重要です。判断能力の有無は、医師の診断書だけでなく契約時の本人の言動や状況などから総合的に判断されるため、「まだ軽度だから大丈夫」と進めた契約の有効性が、後々争われるリスクもあります。 また、家族信託を活用する場合は、信託財産から生じる収益の帰属(受益者課税)や、信託設定時・終了時の税務上の取り扱いについて事前の検討が必要です。家族信託は司法書士が組成をサポートすることが多いですが、税務面については早い段階で税理士にご相談いただくことをお勧めします。
まとめ
認知症などにより本人の意思決定能力が低下すると、不動産の売却や相続対策(生前贈与・家族信託など)に大きな制限がかかります。成年後見制度は財産を守るための制度であり、新たな相続税対策を行うことは原則としてできません。 不動産の売却や相続対策を検討している場合は、判断能力がしっかりしているうちに、家族信託や任意後見制度の活用を含めて早めに準備を進めることが重要です。気になる点があれば、お早めに税理士にご相談ください。


