
2026-05-31
運用・管理不動産の共有名義で起きるトラブルとリスク|売却・相続時の注意点を税理士が解説
不動産を夫婦や親族と共有名義で取得するケースは珍しくありません。しかし共有名義には、売却・リフォーム・相続など様々な場面で意思決定が困難になるリスクが潜んでいます。共有名義特有の問題点と実務上の注意点を解説します。
不動産を複数人で共同所有することを「共有」といい、それぞれの所有割合を「持分」といいます。夫婦でマイホームを購入する際の共有名義や、親の不動産を兄弟姉妹で相続した場合などが代表的なケースです。共有名義自体は法律上認められた形態ですが、共有には「単独名義にはない複雑な問題」が数多く潜んでいます。一度共有状態になると解消が難しくなることも多いため、共有名義を選択する前・相続で共有になった後のいずれでも、リスクをしっかり把握しておくことが重要です。
■ 共有名義になる主なケース ①夫婦での住宅購入:住宅ローンの借入上限を高めるためにペアローン(夫婦それぞれが借入)を組む場合、各自の持分に応じた共有名義になります。ただし、実際の資金負担の割合と登記する持分の割合が1%でもズレていると、税務署から「夫から妻(または逆)への贈与」とみなされ、思わぬ贈与税が課されるリスクがあるため注意が必要です。②相続:親が亡くなり子どもが複数いる場合、遺産分割協議をしないまま相続すると法定相続分どおりの共有状態(法定共有)になります。③共同購入・出資:投資物件を複数人で資金を出し合って購入した場合も共有になります。
■ 共有名義で生じる意思決定の問題 共有不動産に関する行為は、その内容によって必要な共有者の同意範囲が異なります。 ①保存行為:不動産の現状を維持するための行為(雨漏りの修繕など)は、各共有者が単独で行うことができます。 ②管理行為:賃貸借契約の締結・更新、軽微なリフォームなどは、持分の過半数の同意が必要です。 ③変更行為(処分行為):不動産の売却・大規模なリフォーム・建物の取壊しなどは、共有者全員の同意が必要です。 問題が生じやすいのはこの「全員同意」が必要な場面です。共有者の一人でも反対すれば売却できず、一人でも連絡が取れなければ手続きが止まります。特に相続で共有状態になった不動産では、感情的な対立から意見がまとまらないケースが多く見られます。
■ 売却における具体的な注意点 ①全体売却には全員の同意が必須:共有不動産を第三者に売却するには共有者全員が売買契約に同意し、署名・捺印する必要があります。一人でも拒否すれば売却はできません。離婚後の元配偶者や音信不通の相続人が共有者にいる場合、売却が事実上不可能になることがあります。 ②自分の持分だけの売却は可能だが問題がある:法律上は自分の持分だけを第三者に売却することができます。しかし持分だけを買う買主は事実上ほとんど存在せず、買い手がつく場合でも大幅な安値になります。また見知らぬ第三者が共有者に加わることで、他の共有者との関係がさらに複雑化するリスクがあります。 ③共有物分割請求:共有者間で売却の合意が取れない場合、裁判所に「共有物分割請求」を申立てることができます。裁判所の判断で、現物分割(土地を分筆する等)・代償分割(一人が取得して他に代金を支払う)・競売による換価分割が命じられます。ただし競売になると市場価格より大幅に低い価格になることが多く、全員にとって不利な結果になりやすいです。 ④共有名義で売却する場合の3,000万円特別控除:居住用不動産(マイホーム)を共有名義で売却する場合、最高3,000万円まで譲渡所得を控除できる特例が「共有者の人数分」使えるため、大きな節税になるメリットがあります。しかし、離婚などで一方が家を出た後に売却する場合、住まなくなってから3年を経過する日がある年の12月31日を過ぎると、その人の持分については特例が使えなくなるという「期限の罠」もあります。売却を検討する際は、双方が特例を使えるかどうかのタイミングを必ず確認しましょう。
■ 相続で共有が「複雑化」するリスク 共有名義の不動産で特に注意が必要なのが、「共有者が亡くなるたびに共有者が増えていく」問題です。例えば兄弟3人で共有している不動産があり、兄が亡くなると兄の持分はその子どもたち(甥・姪)に相続されます。こうして世代を超えるたびに共有者の数が増え、数十年後には見知らぬ親族が多数の共有者として名を連ねる「共有関係の複雑化」が起こります。こうなると全員の同意を得ることが現実的に不可能になり、不動産が塩漬け状態になります。 令和5年の民法改正により、共有者が不明・不在の場合でも裁判所の関与のもとで一定の管理・売却ができる制度が整備されましたが、手続きに時間とコストがかかることに変わりはありません。
■ 共有名義を解消する主な方法 ①共有物分割協議:共有者全員で話し合い、一人が全部取得して他の共有者に代償金を支払う(代償分割)か、土地であれば物理的に分けて各自が単独所有にする(現物分割)かを決めます。全員が合意できれば最もスムーズな解決方法です。 ②持分の売買:自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう(または他の共有者の持分を自分が買い取る)ことで共有状態を解消します。当事者間で価格の折り合いがつけば最も現実的な解決策です。 ③共有物分割請求訴訟:協議が整わない場合の最終手段です。裁判所が分割方法を決定しますが、時間・費用・関係悪化のリスクがあります。
■ 実務上の注意点と対策 ①最初から共有名義にしない工夫をする:住宅購入時にあえて共有名義にしなくても済む資金計画・ローン設計が可能かを事前に検討しましょう。 ②相続では遺産分割協議を早期に行う:相続発生後できるだけ早く遺産分割協議を行い、不動産を特定の相続人の単独名義にすることで、共有の長期化を防ぎます。令和6年4月から相続登記が義務化されており、相続発生を知った日から3年以内に登記申請しない場合は過料が科される可能性があります。 ③共有者間での取り決めを書面化する:共有名義を続ける場合は、「誰がどの費用を負担するか」「将来売却する場合の手続き」などを書面(共有者間協定書など)で取り決めておくことが、将来のトラブル防止につながります。 ④税理士・司法書士・弁護士への早期相談:共有関係の解消や相続時の名義整理は、税務・登記・法律が絡む複合的な問題です。問題が深刻になる前に早めに専門家へ相談することが、最もコストの低い解決策です。
■ まとめ 不動産の共有名義は「誰もが利用できる便利な形態」に見えて、実際には売却・管理・相続のあらゆる場面で意思決定を困難にするリスクをはらんでいます。特に相続で生じた共有状態を放置すると、世代を超えるごとに問題が複雑化します。共有名義を選択する前には十分なリスク検討を、すでに共有状態になっている場合は早期に解消策を検討することが、大切な不動産を次世代にスムーズに引き継ぐための第一歩です。


