
2026-06-15
税金・節税不動産賃貸業オーナーの相続対策|小規模宅地・法人化・最高裁判決を税理士が解説
不動産賃貸業を営むオーナーの相続対策は、一般の自宅や空き家の相続と異なり「賃貸経営をどう引き継ぐか」という事業承継的な視点が欠かせません。小規模宅地等の特例の適用条件や、借入を活用した評価圧縮対策に関する最新の裁判例、法人化による分割対策など、押さえておくべきポイントを税理士が解説します。
不動産賃貸業を営むオーナーの相続対策は、一般の自宅や空き家の相続と異なり、「賃貸経営をどう引き継ぐか」という事業承継的な視点が欠かせません。また、近年は借入を活用した相続税対策に関する裁判例や、小規模宅地等の特例の適用条件など、押さえておくべき最新の情報も増えています。本記事では、不動産賃貸業オーナーに特化した相続対策のポイントを、最新情報を踏まえて税理士が解説します。
不動産賃貸業オーナー特有の相続対策の視点
一般的な相続対策は「税負担をどう抑えるか」が中心になりがちですが、不動産賃貸業を営んでいる場合は、それに加えて次のような視点が必要になります。 ・事業の継続性:賃貸経営を誰が引き継ぐのか、後継者は経営・管理ができるのか ・賃借人との関係:賃貸借契約・敷金・原状回復義務などは相続後もそのまま引き継がれる ・分割のしやすさ:一棟の賃貸物件は、複数の相続人で公平に分けることが難しい これらを踏まえずに「相続税をいかに減らすか」だけを考えてしまうと、相続後に経営が立ち行かなくなったり、相続人間でトラブルになったりするリスクがあります。
小規模宅地等の特例(貸付事業用地等)の活用
貸付事業用地等の特例とは
不動産賃貸業を行っている土地については、「小規模宅地等の特例」の「貸付事業用地等」に該当すると、200㎡までの部分について相続税評価額が50%減額されます。賃貸アパートや賃貸マンションの敷地など、相続税対策において非常に重要な特例です。
相続開始前3年以内に貸付を開始した不動産には要注意
この特例には、「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された土地等」は原則として対象外とする規定があります。亡くなる直前に賃貸用の不動産を購入・転用して特例を適用するような対策を防ぐための規定です。 ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模(いわゆる「特定貸付事業」)で不動産賃貸業を行っている方が新たに取得・貸付を開始した不動産については、この3年以内の制限を受けません。つまり、すでに事業的規模で不動産賃貸業を営んでいるオーナーが新たに物件を取得する場合は、この除外規定を踏まえた検討が重要になります。
借入を活用した評価圧縮と最高裁判決への注意
不動産は、実際の購入価格(時価)よりも相続税評価額(路線価・固定資産税評価額ベース)が低くなる傾向があり、これを活用した相続税対策は以前から広く行われてきました。借入をして不動産を購入すれば、債務として相続財産から差し引けるため、さらに評価圧縮効果が高まります。 しかし、近年はこうした対策に国税庁が「総則6項」(評価通則の例外規定)を適用し、路線価ではなく不動産鑑定評価額で課税した事例について、最高裁判所がその処分を支持した判決が話題になりました。相続直前に多額の借入で不動産を購入し、相続後すぐに売却するなど、対策の意図が明確なケースが問題視されたものであり、通常の賃貸経営に伴う借入や評価減そのものが否定されたわけではありません。 とはいえ、行き過ぎた評価圧縮対策にはリスクがあることを踏まえ、対策の時期や物件選定については慎重に検討する必要があります。
法人化(資産管理会社化)による相続対策
複数の賃貸物件を所有している場合、法人を設立して不動産(または賃貸事業)を法人に移し、オーナーは法人の株式を保有する形に変える「法人化」も、相続対策として有効な選択肢の一つです。 ・不動産そのものではなく株式を生前贈与・相続させることで、複数の相続人への分割がしやすくなる ・家族を役員にして役員報酬を支払うことで、所得を分散し、相続財産の増加を抑える効果も期待できる 一方で、法人の設立コスト、不動産を法人に移す際の登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税などの負担も発生するため、所有物件の規模や将来の賃貸収入の見通しを踏まえたシミュレーションが欠かせません。
生前贈与による対策と「持ち戻しルール」
生前贈与による相続対策も選択肢の一つですが、令和6年以降は生前贈与加算(持ち戻し)の対象期間が3年から7年に延長されており、以前よりも長期的な視点での計画が必要になっています。不動産賃貸業オーナーの場合、贈与する不動産から生じる賃貸収入も含めて、誰にどのタイミングで資産を移していくかを検討することが重要です。
賃貸経営の引継ぎ:誰に、どう継がせるか
相続税対策と並んで重要なのが、「賃貸経営そのものを誰が引き継ぐか」という点です。 ・後継者となる相続人がいる場合は、早い段階から賃貸経営に関与させ、管理会社とのやり取りや確定申告などを引き継ぐ準備を進める ・後継者がいない、または相続人が経営に関与する意向がない場合は、生前のうちに一部物件の売却や管理会社への委託を検討する 複数の相続人がいる場合、一棟の賃貸物件をそのまま共有名義で相続すると、後々の意思決定(売却・大規模修繕など)で全員の同意が必要になり、トラブルの原因になりやすい点にも注意が必要です。 また、後継者への管理承継や認知症対策として家族信託を活用するケースもあります。
税理士からのアドバイス
不動産賃貸業オーナーの相続対策は、「相続税をいくら減らせるか」だけでなく、「賃貸経営をどう続けていくか」「相続人間で公平に分けられるか」という視点をあわせて検討することが重要です。小規模宅地等の特例や法人化などの制度は、適用条件や効果が複雑であり、所有物件の状況によって最適な組み合わせは異なります。早い段階から税理士に相談し、長期的な計画を立てることをお勧めします。
まとめ
不動産賃貸業オーナーの相続対策では、小規模宅地等の特例(貸付事業用地等)の適用条件や、借入を活用した評価圧縮対策に関する最新の裁判例、法人化による分割対策など、押さえておくべきポイントが多くあります。相続税の節税だけでなく、賃貸経営の継続性や相続人間の公平性も含めて、早めに専門家と一緒に計画を立てていくことが大切です。


