
2026-06-09
税金・節税居住用賃貸建物の消費税還付が制限に!仕入税額控除の規制と背景を税理士が解説
かつて、居住用賃貸物件を購入することで多額の消費税還付を受ける節税スキームが注目されていました。しかし令和2年10月1日以降の取得分から、仕入税額控除が制限される改正が施行されました。制限に至った背景と規制の内容を税理士が詳しく解説します。
「賃貸マンションを購入すると消費税の還付が受けられる」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。かつてはこうした消費税の還付スキームが節税策として活用されていましたが、令和2年(2020年)10月1日以降に取得した居住用賃貸建物については、消費税の仕入税額控除が制限されるようになりました。本記事では、制限に至った背景と改正の内容を解説します。
かつて横行した消費税還付スキームとは
消費税の基本的な仕組み(仕入税額控除)
まず前提として、消費税の仕組みを確認しておきます。事業者が消費税を納める際、「受け取った消費税(売上にかかる消費税)」から「支払った消費税(仕入れにかかる消費税)」を差し引くことができます。これを仕入税額控除といいます。 支払った消費税が受け取った消費税より多い場合は、差額が還付されます。また、仕入税額控除が認められるのは、課税売上げに対応する仕入れが原則です。
住宅の賃貸は消費税が非課税
居住用の住宅の貸付けは消費税が非課税とされています。そのため、居住用賃貸物件を購入して家賃収入を得るだけの事業者は、原則として仕入税額控除を受けることができません。 しかし、非課税売上しかない場合でも、課税売上げを意図的に作ることで課税売上割合を高め、建物購入時の消費税の全部または一部の還付を受けるスキームが利用されていました。
自動販売機スキームの仕組み
代表的なスキームの一つが「自動販売機スキーム」です。その手順はおおむね以下のとおりです。 ①マンション等の居住用賃貸建物(建物価格が高額なため、消費税額も大きい)を取得する年の前年に課税事業者の届出を行う ②建物を取得した年に、敷地内に自動販売機を設置し、缶飲料の販売(課税売上げ)を発生させる ③課税売上げが存在することを根拠に、建物購入時の消費税(仕入税額控除)を申告し、多額の消費税還付を受ける ④その後、賃貸物件として居住用に賃貸する(非課税売上のみの通常運営に戻る) このスキームによって、数千万円〜数億円規模の消費税還付を受けるケースも生じており、国の税収に大きな影響を与えていました。
令和2年の税制改正で何が変わったか
居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限
上記のような問題に対処するため、令和2年度税制改正(消費税法第30条第10項の新設)により、令和2年10月1日以降に取得した居住用賃貸建物については、仕入税額控除が認められないこととなりました。
対象となる「居住用賃貸建物」の定義
制限の対象となる「居住用賃貸建物」とは、以下の要件をいずれも満たす建物です。 ・住宅の貸付けの用に供することが明らかな建物(構造・設備から判断) ・取得価額(税抜き)が1,000万円以上であること 店舗・事務所などの事業用建物や、住居と店舗が混在している建物で「住宅用部分が明らかでない」場合は、この制限の対象外となります。
制限の内容
対象となる居住用賃貸建物を取得した場合、その課税仕入れにかかる消費税は、仕入税額控除の計算から除外されます。つまり、建物購入時に支払った消費税を申告上で控除・還付することができなくなります。 例:税抜き5,000万円の居住用賃貸マンションを取得した場合 → 消費税(10%):500万円を支払うが、この500万円は仕入税額控除の対象外 → 還付・控除を受けることはできない
3年以内に転用・売却した場合の調整制度
制限が一律に適用されると、当初から課税事業(オフィス賃貸など)への活用を予定していたケースも不利になってしまいます。そのため、取得後3年以内に用途変更(課税賃貸への転用)または売却を行った場合には、一定の仕入税額控除の調整が認められる仕組みが設けられています。
課税賃貸用途への転用(3年以内)
取得した居住用賃貸建物を3年以内に課税対象となる賃貸(事業用・店舗用など)に転用した場合、転用の割合(課税賃貸割合)に応じて、制限されていた仕入税額控除の一部を追加控除できます。
売却(3年以内)
取得後3年以内に建物を譲渡した場合も、譲渡時の課税状況(課税譲渡等割合)に応じた調整控除が認められます。売却代金に消費税がかかる課税取引として行われた場合に適用されます。 いずれの調整も、第3年度の課税期間の申告で一括して調整する仕組みです。
実務上の注意点
・「居住用」かどうかの判定は取得時の状況で行います。将来的に事業用に転用する予定があっても、取得時点で「住宅の貸付けの用に供することが明らか」と判断されれば制限の対象です。 ・建物と設備を区分計上することで、建物本体と建物附属設備の消費税を分けて取り扱えるケースがあります。建物附属設備が居住用賃貸の用に供されることが明らかでない場合は、仕入税額控除の対象となる場合があります。 ・免税事業者が課税事業者になるタイミングにも注意が必要です。インボイス制度の導入(令和5年10月1日〜)に伴い、課税事業者を選択した場合の消費税申告では、この制限が適用されるかどうかを慎重に判断する必要があります。
まとめ
居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限は、スキームを利用した消費税還付を封じるために導入された改正です。令和2年10月1日以降に取得した1,000万円以上の居住用賃貸建物は、原則として消費税の仕入税額控除が受けられません。 一方で、3年以内の転用・売却については調整控除の仕組みが設けられており、物件の活用方法によって取り扱いが変わります。不動産取得にあたっては、消費税の取り扱いも含めて事前に税理士に相談することをお勧めします。


